Rによる地震時最大速度と計測震度の推定

Rを利用して地震時の「気象庁マグニチュード」「震源深さ」「断層最短距離」「地震タイプ」から「最大速度」と「計測震度」を推定します。

数式、定義の引用参照資料は こちら です。

参考:「Rによる地震時最大加速度の推定」と「Rによる地震時最大速度と計測震度の推定」のための補助ページ

1 気象庁マグニチュードからモーメントマグニチュードへの変換

「気象庁マグニチュード」から「モーメントマグニチュード」への変換は、陸域の浅い地震1とそれ以外の地震とで異なります。

1.1 陸域の浅い地震

\[\mathrm{log_{10}M_0=1.17M_J+10.72} \tag{1}\] \[\mathrm{log_{10}M_0=1.5M_W+9.1} \tag{2}\] \[\mathrm{M_W=0.78M_J+1.08} \tag{3}\]

ここで、\(\mathrm{M_J}:\)気象庁マグニチュード、\(\mathrm{M_W}:\)モーメントマグニチュード、\(\mathrm{M}_0:\)地震モーメント(N・m)。

グラフで関係を確認します。赤色鎖線は\(\mathrm{M_J=M_W}\)のラインです。

library(dplyr)
library(ggplot2)
fun_convert_mj_to_mw <- function(MJ) {
  0.78 * MJ + 1.08
}
MJ <- seq(from = 1, to = 9, by = 0.1)
MW <- MJ %>% fun_convert_mj_to_mw()
ggplot(mapping = aes(x = MJ, y = MW)) +
  geom_line() +
  geom_abline(color = "red", linetype = "dashed") +
  scale_y_continuous(breaks = scales::pretty_breaks(10))
Figure 1: 気象庁マグニチュードとモーメントマグニチュード

1.2 それ以外の地震

\[\mathrm{M_W=M_J} \tag{4}\]

2 最大速度

「基準基盤最大速度」を求め、「地盤増幅度」を乗じた結果を「地表最大速度」とします。

具体的には始めに 司・翠川(1999)Equation 5 から表層地盤の影響を取り除いた硬質地盤上の最大速度(以降、基準基盤最大速度、PGV)を求めます。

続いて Equation 6 から求めた地盤増幅度を PGV 乗じて地表最大加速度とします。

なお、「基準基盤」とは S波速度(以降、Vs)=600m/s相当の硬質地盤 を意味します。

2.1 基準基盤最大速度

司・翠川(1999)の Equation 5 から基準基盤最大速度を求めます。

\[\mathrm{log_{10}PGV=0.58M_W+0.0038D+d-1.29-log_{10}\left(X+0.0028\cdot10^{0.5M_W}\right)-0.002X} \tag{5}\] ここで、\(\mathrm{PGV}:\)基準基盤最大速度(cm/s)、\(\mathrm{M_W}:\)モーメントマグニチュード、\(\mathrm{D}:\)震源深さ(断層面の平均的な深さ、km)、\(\mathrm{X}:\)断層最短距離(km)、\(\mathrm{d}:\)地震タイプ別の係数(地殻内地震(Crustal)=0.00、プレート内地震(Inter-plate、もぐり込みプレート内で発生する地震)=-0.02、プレート間地震(Intra-plate)=-1.29)。

「震源深さ」を15km、「地震タイプ」を地殻内地震(d=0)と固定して、「モーメントマグニチュード」毎の「断層最短距離」と「基準基盤最大速度」の関係をグラフで確認します。

# PGVを求める関数
fun_pgv <- function(Mw, D, d, X) {
  10^(0.58 * Mw + 0.0038 * D + d - 1.29 - log10(X + 0.0028 * 10^(0.5 * Mw)) - 0.002 * X)
}
# 「震源深さ」と「地震タイプ」を固定
d <- 0
D <- 15
df_pgv <- data.frame()
cnt <- 1
for (Mw in c(5, 6, 7, 8, 9)) {
  for (X in seq(from = D, to = D * 3, by = 1)) {
    df_pgv[cnt, 1] <- Mw
    df_pgv[cnt, 2] <- X
    df_pgv[cnt, 3] <- fun_pgv(Mw = Mw, D = D, d = d, X = X)
    cnt <- cnt + 1
  }
}
colnames(df_pgv) <- c("モーメントマグニチュード", "断層最短距離", "基準基盤最大速度")
df_pgv$モーメントマグニチュード <- df_pgv$モーメントマグニチュード %>% paste0("Mw=", .)
ggplot(data = df_pgv, mapping = aes(x = 断層最短距離, y = 基準基盤最大速度, colour = モーメントマグニチュード, shape = モーメントマグニチュード)) +
  geom_line() +
  geom_point() +
  scale_y_continuous(breaks = scales::pretty_breaks(10))
Figure 2: 基準基盤最大速度

なお、Equation 5 の最大速度は上述の通りVs)=600m/s相当の硬質地盤(基準基盤)を前提としています。

そこで、地震波が「基準基盤(Vs)=600m/s)」から「工学的基盤Vs)=400m/s」を通過して表層地盤に達すると設計し、Equation 5 で求めた最大速度に「基準基盤から工学的基盤までの地盤増幅度(速度増幅度)の比(以降、速度増幅比)」を乗ずることで「工学的基盤」上の最大速度を求めます。

速度増幅比は、

10^(1.83 - (0.66 * log10(400))) / 10^(1.83 - (0.66 * log10(600)))
[1] 1.306833

となり、以降、小数点第2位で丸めて 1.31 とします。

2.2 地盤増幅度

Equation 6 を利用して地表から地下30mまでの「地盤増幅度」を求めます。

\[\mathrm{log\,ARV=1.83-0.66log\,AVS\quad\left(100< AVS <1500\right)} \tag{6}\]

ここで \(\mathrm{ARV}:\)地表から地下30mまでの地盤増幅度(速度増幅度)、\(\mathrm{AVS}:\)地表から地下30nまでの平均S波速度(m/s)。

「平均S波速度」と「地盤増幅度」の関係をグラフで確認します。

fun_arv <- function(AVS) {
  10^(1.83 - 0.66 * log10(AVS))
}
AVS <- seq(from = 100, to = 1500, by = 1)
ARV <- AVS %>% fun_arv()
ggplot(mapping = aes(x = AVS, y = ARV)) +
  geom_line() +
  scale_y_continuous(breaks = scales::pretty_breaks(10))
Figure 3: 地盤増幅度(速度増幅度)

2.3 地表最大速度

Equation 5Equation 6 により「モーメントマグニチュード」、「震源深さ」、「断層最短距離」および「地表から地下30mまでの平均S波速度」から「地表最大速度」が推定されます。

「震源深さ」を15km、「地震タイプ」を地殻内地震(d=0)、「平均S波速度」を200m/sと固定して、「モーメントマグニチュード」毎の「断層最短距離」と「地表最大速度」の関係をグラフで確認します。

# 震源深さ、地盤タイプおよび表層地盤の平均S波速度を固定
d <- 0
D <- 15
AVS <- 200
df_pgv <- data.frame()
cnt <- 1
for (Mw in c(5, 6, 7, 8, 9)) {
  for (X in seq(from = D, to = D * 3, by = 1)) {
    df_pgv[cnt, 1] <- Mw
    df_pgv[cnt, 2] <- X
    PGV <- fun_pgv(Mw = Mw, D = D, d = d, X = X)
    ARV <- fun_arv(AVS = AVS) * 1.31
    df_pgv[cnt, 3] <- PGV * ARV
    cnt <- cnt + 1
  }
}
colnames(df_pgv) <- c("モーメントマグニチュード", "断層最短距離", "地表最大速度")
df_pgv$モーメントマグニチュード <- df_pgv$モーメントマグニチュード %>% paste0("Mw=", .)
ggplot(data = df_pgv, mapping = aes(x = 断層最短距離, y = 地表最大速度, colour = モーメントマグニチュード, shape = モーメントマグニチュード)) +
  geom_line() +
  geom_point() +
  scale_y_continuous(breaks = scales::pretty_breaks(10))
Figure 4: 地表最大速度

3 計測震度

「地表最大速度」から「計測震度」を推定します。

具体的には始めに Equation 5 により求めた「基準基盤最大速度」に 1.31 を乗じて「工学的基盤」の「基準基盤最大速度」に変換し、Equation 6 による「地盤増幅度」を更に乗じて「地表最大速度」を算出して、Equation 7 から「地表最大速度」を「計測震度」に変換します。

3.1 最大速度から計測震度への変換

Equation 5 で求めた最大速度に 1.31 を乗じて求めた工学的基盤での最大速度から計測震度を Equation 7 により推定します。

\[\mathrm{I=2.68+1.72log\,PGV\pm0.21\quad\left(4<\mathrm{I}<7\right)} \tag{7}\]

ここで、\(\mathrm{I:}\)計測震度、\(\mathrm{PGV}:\)工学的基盤の最大速度。

グラフで関係を確認します。

fun_i <- function(PGV) {
  2.68 + 1.72 * log10(PGV)
}
PGV <- seq(from = 100, to = 900, by = 1)
I <- PGV %>% fun_i()
ggplot(mapping = aes(x = PGV, y = I)) +
  geom_line()
Figure 5: 最大速度と計測震度

3.2 気象庁マグニチュードから計測震度の推定

「震源深さ」を15km、「地震タイプ」を地殻内地震(d=0)、「地表から地下30nまでの平均S波速度」を200m/sと固定して、「気象庁マグニチュード」毎の「断層最短距離」と「計測震度」の関係をグラフで確認します。

# 「震源深さ」、「地震タイプ」、「地表から地下30nまでの平均S波速度」を固定
d <- 0
D <- 15
AVS <- 200
df_i <- data.frame()
cnt <- 1
for (MJ in c(5, 6, 7, 8, 9)) {
  for (X in seq(from = D, to = D * 3, by = 1)) {
    Mw <- fun_convert_mj_to_mw(MJ = MJ)
    PGV <- fun_pgv(Mw = Mw, D = D, d = d, X = X) * 1.31
    df_i[cnt, 1] <- MJ
    df_i[cnt, 2] <- X
    df_i[cnt, 3] <- fun_i(PGV = PGV)
    cnt <- cnt + 1
  }
}
colnames(df_i) <- c("気象庁マグニチュード", "断層最短距離", "計測震度")
df_i$気象庁マグニチュード <- df_i$気象庁マグニチュード %>% paste0("MJ=", .)
ggplot(data = df_i, mapping = aes(x = 断層最短距離, y = 計測震度, colour = 気象庁マグニチュード, shape = 気象庁マグニチュード)) +
  geom_line() +
  geom_point()
Figure 6: 気象庁マグニチュードと計測震度

参考:気象庁震度階級表

4 引用参照資料

  1. https://www.jstage.jst.go.jp/article/aijs/64/523/64_KJ00004087596/_pdf/-char/ja
  2. http://news-sv.aij.or.jp/kouzou/s4/past/archive_pdf/22_1994.pdf
  3. https://www.data.jma.go.jp/eew/data/nc/kako/techmeeting/05/shiryo3-1.pdf
  4. https://www.j-map.bosai.go.jp/j-map/result/tn_246/
  5. https://www.j-map.bosai.go.jp/j-map/result/tn_249/
  6. https://www.j-map.bosai.go.jp/j-map/result/tn_255/
  7. https://www.jishin.go.jp/main/chousa/10_yosokuchizu/k_kangaekata.pdf
  8. https://jishin.go.jp/main/choukihyoka/04mar_kakuritsu/setsumei_3.pdf
  9. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsceja/62/4/62_4_740/_pdf/-char/ja
  10. https://www.giroj.or.jp/publication/earthquake_research/No20_7.pdf
  11. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jisss/7/0/7_241/_pdf/-char/ja
  12. https://www.jishin.go.jp/main/chousa/20_yosokuchizu/recipe_revision_summary.pdf
  13. https://iisee.kenken.go.jp/eqflow/reference/4_1.htm
  14. https://www.jstage.jst.go.jp/article/aijsx/442/0/442_KJ00004085779/_pdf/-char/en

以上です。

Footnotes

  1. 陸のプレート内の浅い所(深さ約20kmより浅い所.https://www.jma-net.go.jp/wakkanai/jisin/bmemo/bmemo202002.pdf)↩︎